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PS2ゲーム「三国恋戦記」のいろいろ。 はじめて来られた方はカテゴリ「はじめに」をご覧ください。
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さいきんリアルで引っ越しをしまして、そのネタでひとつ書きました。
リアル引っ越しも、このくらい夢とときめきがあったらなあ・・・!という制服のカナシイ願いがこもっております(笑)。
ほのぼの仲花です。

「思い出がえし」プレイ前に書いたので、ちょっと設定的にどうかなと思いますが(婚儀後のふたりの部屋がどうなってるのかとか)、そのへんはゆるっと見ていただけると幸いです。

ごらんになっていただける方は、「つづきを読む」からどぞ。

「ここであなたと」

 
 引っ越しは、あっけなく済んだ。
 そもそも身ひとつで揚州に来た花である。消えてしまったあの異国の妖書いがいに、彼女の持ち物といえば、着替えが数枚と、櫛や手巾など、身の回りのこまごましたものがいくつかあるだけである。そのほかの日用品は、客間にしつらえられていた調度品で、じゅうぶんに用が足りていた。
 だから、前々から聞かされていた新居への家移りも、当日の朝にちょこちょこと化粧台のあたりをかき集めて大きめの布に包めば、それで引っ越しの準備は終わった。花に仕える侍女たちは、もうすこし長く立ち働いていたが、やがて小ぶりな衣装箱ひとつが半分ほどの容量になったところで、彼女たちの仕事も尽きてしまった。
「ええー?花ちゃんの荷物ってそれだけー?」
「わたしたち、お手伝いしようと思ってたのにー」
 包みをかかえて廊下を歩くうちに、いきおいよく走ってきた姉妹に出くわした花は、ありがとうございますと笑って言った。
「むこうの部屋に、いろいろ立派なものが用意されていますから。私が持ち込むものなんて、ほとんどありませんよ」
 こまかな彫刻がほどこされた机、肘かけが象牙の椅子。
 達人の筆づかいも優雅な掛け軸、西域からとりよせたガラスの花びん。
 古今の名著がそろった書棚、うつくしく磨かれた鏡。
 金銀で飾られた特大の箱には、これまた高価で上品な衣装が何着も納められている。装身具にいたっては、宝物庫が移動してきたかと疑うほどだ。
 どれもこれもが真新しく、そして最高級のものばかりのその部屋を、はじめて見せられたとき、花は思わず「セレブ御用達の五つ星ホテルみたい」と呟いてしまった。しかも「これからお前はここに住むんだ」と命令されて、根っからの庶民な花は、ただひたすらポカンとするばかりだった。
 もちろん花だって、きれいなものは好きだ。故郷の世界では、ささやかな雑貨を買い集めたりして、自分の部屋をせっせと飾っていた。
 が、しょせん女子高校生の自室カスタマイズとは、次元が違う話である。
「うーん、アレが自分の部屋って……やっぱり、ちょっと馴染めないんですけど」
いかにも豪華で、それでいて趣味が良く、一分の隙なくみごとに整えられた新居を思い、花は肩をすくめる。
すると姉妹は、互いによく似た面差しを、これまた似かよった「人のわるそうな笑顔」にしてみせた。
「やだ花ちゃんったら、そんなこと言ったら、ねー?」
「ねー?仲謀が泣いちゃうよねー」
「ずっと前から、すんごいがんばって準備したんだからねー」
「私たちもお手伝いしたけどねー?だって仲謀ったら、女の子の気持ちがぜんぜんわかってないんだもん」
「自分が仕留めた虎の毛皮なんか飾って、さいあくだよねー」
「そんなの花ちゃんが見ても楽しいわけないじゃんって言ったら、ぷりぷり怒るし」
「あと、花ちゃんの服もねー。せっかく私たちが花ちゃんに似合うカワイイのを選んだのに、あれは布が薄すぎるとか、これは胸元が見えるからダメとか、文句ばっかり言うんだもん」
「お部屋で着る服なら、スケスケでも文句言わないくせにねー」
「ちょ、え、そっ、そんな服を用意してるんですかっ!?」
 最後に付け加えられた聞き捨てならない情報に、花はあわてて真偽を確かめようとするものの、姉妹は軽やかに笑って答えず、さあさあと花を急かした。
「はーい、花ちゃん、急いでー!」
「そうそう、急がないとねー」
「誰かさんが、またまた怒っちゃうよねー」
「カンカンになっちゃうよねー」
 我が道を行く姉妹に手を取られ背中を押され、前につっかかるようにして花は歩く。
 きゃあきゃあと子猫のようにはしゃぐ、娘たちのにぎやかな行進に、すれちがう侍女や家臣らは目を細めて一礼する。
 そして皆がつけ加える。おめでとうございます、いよいよですね。
「え、あっ、その、はい……」
 そのたびに耳を赤くして、はにかんだりうつむいたりと忙しい花にかわり、姉妹が明るく元気に返事をする。そうなんだよ、いよいよなんだよ。
「あの、大喬さん小喬さん。あんまりはっきり『いよいよ』とか言われると、恥ずかしいんですが……」
「えー?今さらだよ花ちゃん」
「そうそう、どーんと構えていなくちゃ!」
 間近にせまった祝日を盛り上げるため、そこかしこに季節の花が活けられた回廊を抜けると、城仕えの庭師たちが総力をあげて整えた庭で、東屋の屋根がまぶしく輝いているのが見えた。
 真新しい木の香りが心をくすぐる。扉は最初から開かれていた。
「はーい、とうちゃくー!」
「とうちゃーく!おっまたせー!」
「お前らは待ってねえ」
 笑顔満開で部屋に飛びこんだ姉妹に、ぶすりとした顔と声がつけ加える。
 広い居間の中央で、すらりとした長身を大きな卓にもたれかけたまま、まねかれざるふたりと待ちかねたひとりを迎えた彼は、美しい眉をやや不機嫌に曲げていた。
「なんでお前らまで来るんだよ大小」
「えー、仲謀ひっどーい」
「ねー、せっかく花ちゃんを連れてきてあげたのにー」
「遅いまだ来ないってイライラしてたから、わたしたちがお迎えにいってあげたのにー」
「ちゅーぼーの怒りんぼー、かいしょーなしー、花ちゃんに逃げられちゃえー」
「婚儀前だけど逃げられちゃえー」
「て、てめえらなあ……」
 どこまでも言いたい放題な姉妹は、「はやくどっかに行きやがれ」と怒鳴られるまでもなく、けたたましい足音とともに脱走する。
 わなわなとふるえる拳が怖いやらおかしいやらで、花は急いで恋人のもとに駆け寄った。
「待っててくれたの?」
「待ってねえよ」
 すかさず返された答えは否定形なのに、金色の髪のあいだに見える真っ赤な耳がみごとに言葉を裏切っていて、花の頬はしぜんとゆるんだ。
 数日前にも見た新居は、あいかわらず、ただよう高級感と広すぎる間取りで戸惑いを生むけれど、よそよそしさや冷たさは感じない。ここを手配した彼と、彼と自分のために働いてくれた人たちの、真心がわかるから。
 見わたした先にある棚飾りには、あわい桃色の花が一輪。
 今日からここが、わたしの部屋。つぶやくと、低い声がそれを打ち消した。
「ここがお前の部屋なのは、今日だけだ」
 ふと片手を取られ、花が顔を上げれば、深い青の瞳が微笑みをたたえて見下ろしていた。
「明日からは、俺たちの部屋だからな」
「うん」
 近づいた気配の優しさと、ささやきの甘さに、きゅっと胸が音を立てる。
 よしと満足そうにうなずくこの部屋のもうひとりの主、その長い腕に、明日の花嫁はそうっと額をあずけて目を閉じた。

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