呉のモブな皆さんが大好きです(いきなり)。
武将とか侍女とか兵士とか。
なんだかんだで皆に好かれている仲謀は幸せ者だと思うのです。
当人は「うっとおしい」「構い過ぎだ」とか思ってそうですけどね。独り立ちしたいお年頃だから。
そんな感じでネタが浮かびましたので、「つづきを読む」からどうぞ。
※オリキャラというほどでもないですが、ゲーム中のキャラ以外の視点です。
ご注意くださいませ。
武将とか侍女とか兵士とか。
なんだかんだで皆に好かれている仲謀は幸せ者だと思うのです。
当人は「うっとおしい」「構い過ぎだ」とか思ってそうですけどね。独り立ちしたいお年頃だから。
そんな感じでネタが浮かびましたので、「つづきを読む」からどうぞ。
※オリキャラというほどでもないですが、ゲーム中のキャラ以外の視点です。
ご注意くださいませ。
「臣つつしみて言上す」
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主はみずみずしい美貌を不愉快そうにゆがめて、鼻を鳴らした。
「なんだ、またその話か?」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞ早々にご婚姻あって、ご継嗣を得られますように」
おだやかな昼下がりの執務室。山と積まれた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の息子よりも年下の少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はかんばしくない。機嫌の悪さを隠そうともせず、つややかな金色の髪をかきまわしながら、乱暴に言い捨てる。
「いいかげん、お前もこりないな」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「俺は任じた覚えは無い。とっとと放棄しろ・・・・・・何も聞かねえぞ」
「そういうわけには参りませぬ」
水上貿易の富貴と肥沃な大地を持つ揚州、そこを治めるは勇猛なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいて歳を重ねた口やかましい爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い君主の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の嫁取り問題について。もっかのところ孫家の最重要課題のひとつであるのだが、なかなかに繊細なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人がしごく円満な家庭を持ち、子宝にも恵まれて(二男二女)いるからである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「先々代には伯符さまが、伯符さまには仲謀さま、あなたさまがおられました。正しき血統の担い手がおられてこそ、国は安泰を得られるのです。ご後継にまつわる争いが古来より国を乱す元たることは、仲謀さまもよくご存じのはず」
「言われるまでもない」
「どうぞ、衷心より申し上げます。ご婚姻について、前向きにお考えくださいますように」
本来ならば「つべこべいわずさっさと嫁を迎えてください」と言いたいところを、やんわりとした言い回しに換えるのは、年の甲である。傲慢で勝気な性格の少年であれば、下手にきつく言い過ぎては、かえって反発も強まろうというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
苛立ちを無理やり押さえるような沈黙と、頭頂部に炯々とそそがれる冷たい視線が、本日の不首尾を彼に知らしめるのだった。
ちっ、といまいましそうな舌打ちが空気をするどく裂き、低い声で言い渡される
「お前の言いたいことはわかった。だが、北の色ぼけオヤジ・・・・・・曹孟徳が不穏な気配を振りまいてるこの時期に、俺がやるべきことは他にある」
「国情の不安は重々承知しております。だからこそ、民に揚州の盤石を知らしめるためにも」
「くどい、下がれ!いまは女ごときで時間を無駄にしたくねえ」
とうとう怒気もあらわに言い切られ、彼は形勢不利をさとる。
「失礼いたしました」と平静をよそおって退出したものの、落胆はかくせない。はあ、とこぼれたため息は、足取りと同じく重かった。
主君・孫仲謀は、彼の自慢だった。血筋の尊さといい容姿の美しさといい、天下に比肩なき貴公子である。識見にすぐれ武勇にもめぐまれ、君主としての器は申し分ない。いまは聞く耳を持たれずに追い出されたが、本来は家臣の諫言をすすんで受け入れ、改めるべきは改める度量の広さを持っているのだ。
その気になれば、どんな貴婦人も美姫も思うがままだというのに・・・・・・いったい、いつになれば自分たち年寄りの心配は解消されるのやら。
はるか遠い道のりを思って、彼はさいきん凝りがひどくなってきた肩を、とんとんと拳で叩いた。
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主は頬づえをついていた手を外し、面倒くさそうに青い瞳をまたたかせた。
「なんだ、またその話か?」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞ早々にご婚姻あって、ご継嗣を得られますように」
おだやかな昼下がりの執務室。どんどん積まれて崩れかけた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の娘よりも年下の少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はなぜか鈍い。またかよ、と呟く声音は前と変わらず嫌そうだが、なんとなく覇気がこもっていない。
「いいかげん、お前もこりないな・・・・・・」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「ああそうかよ」
「・・・・・・仲謀さま?」
悠久の大河と温暖な気候を持つ揚州、そこを治めるは秀麗なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいてお節介で心配性な爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い主君の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の嫁取り問題について。もっかのところ孫家の最重要課題のひとつであるのだが、なかなかに微妙なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人が貞淑で美しい奥方を持ち、仲睦まじさで知られている(結婚三十二年目)からである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「公式と非公式とを問わず、寄せられました縁談は両手両足の指でも数えきれませぬ。揚州はもとより、荊州、青洲、徐州、果ては西涼からも親書が届いております。どなたもみな良家のお嬢さまがた、ご後見もお血筋も申し分ない美姫ぞろいと伺っております」
「・・・・・・へえ」
「どうぞ、衷心より・・・・・・あの、仲謀さま、お聞きいただけておりますでしょうか?」
本来ならば「ぼやっとしてないでちゃんと聞きやがれ」と言いたいところを、やさしげな言い回しに換えるのは、年の甲である。我が強く負けず嫌いな性格の少年であれば、下手に頭ごなしに言い過ぎては、かえって聞く耳もふさがれるというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
なにかを憂えるようなぼんやりとした沈黙と、淡い熱をふくんで宙をただよう視線が、本日の異変を彼に知らしめるのだった。
はああ、と肺の空気をぜんぶ吐き出したかと思うほどのため息とともに、低い声で言い渡される。
「お前の言いたいことはわかった。だが、いまはそんな話を聞きたくねえ。・・・・・・合肥への出兵も近いしな」
「は、それは臣も重々・・・・・・その、伺いましたところによりますれば、ご出陣には劉玄徳さまの使者どのも、ご同道なされるとか」
「・・・・・・・・・・・・っ」
「いくら軍才の誉れありとはいえ、女人を、しかも他国の息のかかった者を戦場にお連れになるというのは・・・・・・」
「う、うるさい、あいつは関係ないだろ!下がれ!」
真っ赤な顔で当たり散らすように怒鳴られ、彼は形勢不利をさとる。
「失礼いたしました」と平静をよそおって退出したものの、不審はかくせない。はて、とかしげる首に合わせ、足取りも乱れてたたらを踏んだ。
最近の主君・孫仲謀は、何かがおかしい。烏林で曹孟徳の大軍を破り、いま意気揚々と中原制覇への足がかりを得ようとしているはずなのに、どこかうわの空というか、心ここにあらずというか、さえない表情をしていることが多いのだ。かと思えば、いきなり興奮して怒りはじめたり、ひとり言をブツブツ呟いたり。奇怪である。
一説には、かの『伏龍の弟子』たる少女が京城を訪れてからだとの噂だが・・・・・・まったく、自分たち年寄りの寿命をさらに縮めるようなことにならなければいいが。
なにやら不穏な予感をかかえて、彼はさいきん後退が激しくなってきた髪の生え際を、ぐりぐりと指でもみほぐした。
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主は端正な眉を逆立てて、不満もあらわに叫んだ。
「またかよ!まだ言うかよ!」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞご婚儀の延期をご決断くださいますように」
おだやかな昼下がりの執務室。積まれすぎて机から転がり落ちた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の孫といっても通じるほどの少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はかんばしくない。はっきり言って最悪である。いまにも噛みつきそうな勢いで口をくわっと開き、獅子のように吼えたてた。
「いいかげんにしろ、何度俺さまにおなじことを聞かせるつもりだ!」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「あーそうかよ、なら勝手にしろ!ぜったいに譲らねえぞ」
「そういうわけには参りませぬ」
天下無敵の水軍とほがらかな民を持つ揚州、そこを治めるは賢哲なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいて過保護で出しゃばりな爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い君主の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の婚儀問題について。もっかのところ孫家の最重要課題の筆頭であるのだが、なかなかに複雑なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人が若いころ、一人娘を溺愛する頑固おやじと真っ向から拳で対決し(実に三年ものあいだ清らかな交際を続けた果てに)妻を得られたと言う、涙なしには聞けない苦労話を持っているからである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「かりにも孫家のご当主が奥方さまをお迎えになるのに、たった二月ほどの間に用意が整うはずもございませぬ。婚儀にともないます儀式の品の注文から、新郎新婦のご衣裳、ご新居の準備、宴に使われます食料品の調達、ご招待なさるお客さま方への書状、お迎えする館の支度、人手の確保、挙げてみますればキリがございません。せめて半年はご猶予をいただかねば・・・・・・」
「そんなに待てるか!なんとかしろ!」
「ご無理をおっしゃいますな。どうぞ、衷心より申し上げます。なにとぞご婚儀はもうしばらく延ばされ、じゅうぶんな準備の時間を我われにお与えくださいますように」
本来ならば「ワガママ言ってんじゃねえこっちの都合も考えろ」と言いたいところを、おだやかな言い回しに換えるのは、年の甲である。直情的で誇り高い性格の少年であれば、下手にきびしく言い過ぎては、かえって態度を硬くしてしまうというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
焦りを無理やり押しこめるような沈黙と、現実と希望を秤にかけて揺れ動く視線が、本日の首尾よろしきを彼に知らしめるのだった。
ふう、とさまざまな感情をこめた吐息が空気を震わせ、低い声で言い渡される。
「お前の言いたいことはわかった。俺だって、中途半端な支度で、花に恥をかかせるのは嫌だ」
「まことにその通りでございます。なんといっても、婚儀はおなごの一生の大事。心を尽くして細やかにお支度を整えてさしあげてこそ、男の器量と申すものですぞ」
「わかってる。だけどな・・・・・・俺の気持ちはどうしてくれるっつーんだ・・・・・・!」
「は?仲謀さま?」
「・・・・・・約束しちまったんだよ」
「はあ?」
「うっかり、『婚儀が終わるまで手は出さない』って花に言っちまったんだよ・・・・・・!」
とうとう机に突っ伏して絶叫する主君に、彼は事の真相をさとる。
「・・・・・・なるべく急ぎます」と平静をよそおって退出したものの、苦笑はかくせない。なるほど、とうなずく仕草には、おなじ男としての同情が深くこめられた。
このところの主君・孫仲謀は、幸せのただなかにある。一時は悪化した劉玄徳との関係を修復し、荊州に帰還した恋人をその手のなかに取り戻した。あらためて未来の妻として京城に迎え、その愛しみぶりは「女ごときに時間を云々」と言っていた男とおなじ人物だとは思えない。強がってみせてもデレデレである。
好きな女に手を出せない辛さは分からんでもないが・・・・・・無理に格好つけた自分のせいだろう、と年寄りの目には愚かにもほほえましくも映る。
遠からず訪れる華やかな祝祭を思って、彼はさいきんしわ深くなってきた目元を、にこにことやさしく緩ませた。
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主はみずみずしい美貌を不愉快そうにゆがめて、鼻を鳴らした。
「なんだ、またその話か?」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞ早々にご婚姻あって、ご継嗣を得られますように」
おだやかな昼下がりの執務室。山と積まれた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の息子よりも年下の少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はかんばしくない。機嫌の悪さを隠そうともせず、つややかな金色の髪をかきまわしながら、乱暴に言い捨てる。
「いいかげん、お前もこりないな」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「俺は任じた覚えは無い。とっとと放棄しろ・・・・・・何も聞かねえぞ」
「そういうわけには参りませぬ」
水上貿易の富貴と肥沃な大地を持つ揚州、そこを治めるは勇猛なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいて歳を重ねた口やかましい爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い君主の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の嫁取り問題について。もっかのところ孫家の最重要課題のひとつであるのだが、なかなかに繊細なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人がしごく円満な家庭を持ち、子宝にも恵まれて(二男二女)いるからである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「先々代には伯符さまが、伯符さまには仲謀さま、あなたさまがおられました。正しき血統の担い手がおられてこそ、国は安泰を得られるのです。ご後継にまつわる争いが古来より国を乱す元たることは、仲謀さまもよくご存じのはず」
「言われるまでもない」
「どうぞ、衷心より申し上げます。ご婚姻について、前向きにお考えくださいますように」
本来ならば「つべこべいわずさっさと嫁を迎えてください」と言いたいところを、やんわりとした言い回しに換えるのは、年の甲である。傲慢で勝気な性格の少年であれば、下手にきつく言い過ぎては、かえって反発も強まろうというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
苛立ちを無理やり押さえるような沈黙と、頭頂部に炯々とそそがれる冷たい視線が、本日の不首尾を彼に知らしめるのだった。
ちっ、といまいましそうな舌打ちが空気をするどく裂き、低い声で言い渡される
「お前の言いたいことはわかった。だが、北の色ぼけオヤジ・・・・・・曹孟徳が不穏な気配を振りまいてるこの時期に、俺がやるべきことは他にある」
「国情の不安は重々承知しております。だからこそ、民に揚州の盤石を知らしめるためにも」
「くどい、下がれ!いまは女ごときで時間を無駄にしたくねえ」
とうとう怒気もあらわに言い切られ、彼は形勢不利をさとる。
「失礼いたしました」と平静をよそおって退出したものの、落胆はかくせない。はあ、とこぼれたため息は、足取りと同じく重かった。
主君・孫仲謀は、彼の自慢だった。血筋の尊さといい容姿の美しさといい、天下に比肩なき貴公子である。識見にすぐれ武勇にもめぐまれ、君主としての器は申し分ない。いまは聞く耳を持たれずに追い出されたが、本来は家臣の諫言をすすんで受け入れ、改めるべきは改める度量の広さを持っているのだ。
その気になれば、どんな貴婦人も美姫も思うがままだというのに・・・・・・いったい、いつになれば自分たち年寄りの心配は解消されるのやら。
はるか遠い道のりを思って、彼はさいきん凝りがひどくなってきた肩を、とんとんと拳で叩いた。
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主は頬づえをついていた手を外し、面倒くさそうに青い瞳をまたたかせた。
「なんだ、またその話か?」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞ早々にご婚姻あって、ご継嗣を得られますように」
おだやかな昼下がりの執務室。どんどん積まれて崩れかけた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の娘よりも年下の少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はなぜか鈍い。またかよ、と呟く声音は前と変わらず嫌そうだが、なんとなく覇気がこもっていない。
「いいかげん、お前もこりないな・・・・・・」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「ああそうかよ」
「・・・・・・仲謀さま?」
悠久の大河と温暖な気候を持つ揚州、そこを治めるは秀麗なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいてお節介で心配性な爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い主君の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の嫁取り問題について。もっかのところ孫家の最重要課題のひとつであるのだが、なかなかに微妙なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人が貞淑で美しい奥方を持ち、仲睦まじさで知られている(結婚三十二年目)からである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「公式と非公式とを問わず、寄せられました縁談は両手両足の指でも数えきれませぬ。揚州はもとより、荊州、青洲、徐州、果ては西涼からも親書が届いております。どなたもみな良家のお嬢さまがた、ご後見もお血筋も申し分ない美姫ぞろいと伺っております」
「・・・・・・へえ」
「どうぞ、衷心より・・・・・・あの、仲謀さま、お聞きいただけておりますでしょうか?」
本来ならば「ぼやっとしてないでちゃんと聞きやがれ」と言いたいところを、やさしげな言い回しに換えるのは、年の甲である。我が強く負けず嫌いな性格の少年であれば、下手に頭ごなしに言い過ぎては、かえって聞く耳もふさがれるというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
なにかを憂えるようなぼんやりとした沈黙と、淡い熱をふくんで宙をただよう視線が、本日の異変を彼に知らしめるのだった。
はああ、と肺の空気をぜんぶ吐き出したかと思うほどのため息とともに、低い声で言い渡される。
「お前の言いたいことはわかった。だが、いまはそんな話を聞きたくねえ。・・・・・・合肥への出兵も近いしな」
「は、それは臣も重々・・・・・・その、伺いましたところによりますれば、ご出陣には劉玄徳さまの使者どのも、ご同道なされるとか」
「・・・・・・・・・・・・っ」
「いくら軍才の誉れありとはいえ、女人を、しかも他国の息のかかった者を戦場にお連れになるというのは・・・・・・」
「う、うるさい、あいつは関係ないだろ!下がれ!」
真っ赤な顔で当たり散らすように怒鳴られ、彼は形勢不利をさとる。
「失礼いたしました」と平静をよそおって退出したものの、不審はかくせない。はて、とかしげる首に合わせ、足取りも乱れてたたらを踏んだ。
最近の主君・孫仲謀は、何かがおかしい。烏林で曹孟徳の大軍を破り、いま意気揚々と中原制覇への足がかりを得ようとしているはずなのに、どこかうわの空というか、心ここにあらずというか、さえない表情をしていることが多いのだ。かと思えば、いきなり興奮して怒りはじめたり、ひとり言をブツブツ呟いたり。奇怪である。
一説には、かの『伏龍の弟子』たる少女が京城を訪れてからだとの噂だが・・・・・・まったく、自分たち年寄りの寿命をさらに縮めるようなことにならなければいいが。
なにやら不穏な予感をかかえて、彼はさいきん後退が激しくなってきた髪の生え際を、ぐりぐりと指でもみほぐした。
うやうやしく頭を下げ、彼が主君に自らの意を伝えると、若き主は端正な眉を逆立てて、不満もあらわに叫んだ。
「またかよ!まだ言うかよ!」
「はい、臣はつつしんで申し上げます。仲謀さま、どうぞご婚儀の延期をご決断くださいますように」
おだやかな昼下がりの執務室。積まれすぎて机から転がり落ちた竹間のほかに、彼らの話を聞く者はいない。
自分の孫といっても通じるほどの少年に、彼はあくまでも丁重に語りかける。こころからの忠節を持って。
だが、主の反応はかんばしくない。はっきり言って最悪である。いまにも噛みつきそうな勢いで口をくわっと開き、獅子のように吼えたてた。
「いいかげんにしろ、何度俺さまにおなじことを聞かせるつもりだ!」
「それが臣の役目と心得ますれば」
「あーそうかよ、なら勝手にしろ!ぜったいに譲らねえぞ」
「そういうわけには参りませぬ」
天下無敵の水軍とほがらかな民を持つ揚州、そこを治めるは賢哲なる孫氏の一族。
その孫家を陰に日向にささえる百官のなかでも、国政に重きをなす地位を持ち、重臣と呼ばれる者は数えるほどしかいない。たいがいにおいて過保護で出しゃばりな爺またはオヤジである彼らは、本来の役職のほかに、非公式ながらもうひとつの役目を自らに課していた。
すなわち、ご意見番。才気にあふれた年若い君主の日常に、あれこれ先回りして口出しするのである。
ちなみにこの『彼』が担当するのは、主君の婚儀問題について。もっかのところ孫家の最重要課題の筆頭であるのだが、なかなかに複雑なネタであるがために、めったな者には口にできない。彼がその重責を担うゆえんは、当人が若いころ、一人娘を溺愛する頑固おやじと真っ向から拳で対決し(実に三年ものあいだ清らかな交際を続けた果てに)妻を得られたと言う、涙なしには聞けない苦労話を持っているからである。
そんな実績をひっさげ、彼は今日も主君の勘気をこうむるのを承知で、問題の解決を提案するのだった。
「かりにも孫家のご当主が奥方さまをお迎えになるのに、たった二月ほどの間に用意が整うはずもございませぬ。婚儀にともないます儀式の品の注文から、新郎新婦のご衣裳、ご新居の準備、宴に使われます食料品の調達、ご招待なさるお客さま方への書状、お迎えする館の支度、人手の確保、挙げてみますればキリがございません。せめて半年はご猶予をいただかねば・・・・・・」
「そんなに待てるか!なんとかしろ!」
「ご無理をおっしゃいますな。どうぞ、衷心より申し上げます。なにとぞご婚儀はもうしばらく延ばされ、じゅうぶんな準備の時間を我われにお与えくださいますように」
本来ならば「ワガママ言ってんじゃねえこっちの都合も考えろ」と言いたいところを、おだやかな言い回しに換えるのは、年の甲である。直情的で誇り高い性格の少年であれば、下手にきびしく言い過ぎては、かえって態度を硬くしてしまうというものだ。
もういちど、深々と頭を下げる。主君からの返事は得られない。
焦りを無理やり押しこめるような沈黙と、現実と希望を秤にかけて揺れ動く視線が、本日の首尾よろしきを彼に知らしめるのだった。
ふう、とさまざまな感情をこめた吐息が空気を震わせ、低い声で言い渡される。
「お前の言いたいことはわかった。俺だって、中途半端な支度で、花に恥をかかせるのは嫌だ」
「まことにその通りでございます。なんといっても、婚儀はおなごの一生の大事。心を尽くして細やかにお支度を整えてさしあげてこそ、男の器量と申すものですぞ」
「わかってる。だけどな・・・・・・俺の気持ちはどうしてくれるっつーんだ・・・・・・!」
「は?仲謀さま?」
「・・・・・・約束しちまったんだよ」
「はあ?」
「うっかり、『婚儀が終わるまで手は出さない』って花に言っちまったんだよ・・・・・・!」
とうとう机に突っ伏して絶叫する主君に、彼は事の真相をさとる。
「・・・・・・なるべく急ぎます」と平静をよそおって退出したものの、苦笑はかくせない。なるほど、とうなずく仕草には、おなじ男としての同情が深くこめられた。
このところの主君・孫仲謀は、幸せのただなかにある。一時は悪化した劉玄徳との関係を修復し、荊州に帰還した恋人をその手のなかに取り戻した。あらためて未来の妻として京城に迎え、その愛しみぶりは「女ごときに時間を云々」と言っていた男とおなじ人物だとは思えない。強がってみせてもデレデレである。
好きな女に手を出せない辛さは分からんでもないが・・・・・・無理に格好つけた自分のせいだろう、と年寄りの目には愚かにもほほえましくも映る。
遠からず訪れる華やかな祝祭を思って、彼はさいきんしわ深くなってきた目元を、にこにことやさしく緩ませた。
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おーのーれーはー
制服ーーー!!!(敢えてぼたんと呼ばず)
何故に完成稿で2頁削りやがった…!!!
台割変更するならするで、先に言えー!
気付かないまま台割修正しなかったから、2号から「いんですか?」TELがあったっちゅーねん!!
まぁアナログじゃなかったから、問題は無いが…
こっち来た時オボエテロ?(微笑)
と言う訳で何とか無事に本は出ます。
日付がヤバ過ぎな感はありますが、今小作人2号さんが一生懸命、ついさっき送ったデータでせっせと作ってくれてます。
シリアスタッチではありますが、仲の字の葛藤がふんだんに盛り込まれてるお話ですので、(絵の事は置いといて)悶々仲謀お好きの方はいらしてくださいませ。
何故に完成稿で2頁削りやがった…!!!
台割変更するならするで、先に言えー!
気付かないまま台割修正しなかったから、2号から「いんですか?」TELがあったっちゅーねん!!
まぁアナログじゃなかったから、問題は無いが…
こっち来た時オボエテロ?(微笑)
と言う訳で何とか無事に本は出ます。
日付がヤバ過ぎな感はありますが、今小作人2号さんが一生懸命、ついさっき送ったデータでせっせと作ってくれてます。
シリアスタッチではありますが、仲の字の葛藤がふんだんに盛り込まれてるお話ですので、(絵の事は置いといて)悶々仲謀お好きの方はいらしてくださいませ。
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制服ぼたん
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非公開
職業:
ガテン系
趣味:
いろいろ
自己紹介:
ごくふつうの乙女ゲーマーです。
ごくふつうにNLカポーが好きです。
日々ウケと笑いをねらって生きてます。
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