「誰も知らないある日の話」後編です。
モブばっかりの話を書いて何が楽しいんだって、ときどき我にかえることはあります。
創作中、0.005秒くらい。
すぐ忘れます。そしてモブばんざいと書き散らす。
それが制服の基本設定です。
読んでくださるお優しいかたは「つづきを読む」へ~。
モブばっかりの話を書いて何が楽しいんだって、ときどき我にかえることはあります。
創作中、0.005秒くらい。
すぐ忘れます。そしてモブばんざいと書き散らす。
それが制服の基本設定です。
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くだんの孫家の若当主、孫仲謀は、今年で16歳になる。
しかし、まだ妻帯はしていない。
名門の子弟、しかも一族を率いる当主であってみれば、成人と同時に妻を迎えてもおかしくないところだが、当主就任にいたる事情が事情(彼の兄たる孫伯符の横死がきっかけであり、政情もいささか動揺した)だったので、その慌ただしさにまぎれてつい花嫁候補の選定が後まわしになり、やっと情勢が落ち着いて周囲が嫁取りを勧めたところ、仲謀の反応はさっぱりかんばしくないものだった。
いわく、
「そんなヒマあるか」
または、
「興味ねえな」
そっけないにもほどがある。推薦者は、かなり心を折られた。
そこからなんとか持ちなおし、相手は指折りの名家の姫だとか、音に聞こえた美人だとか、いくら言葉を尽くしても、仲謀の無関心は変わらなかった。
しまいには「うるっせえな、いいかげんにしろ!」と怒りだすしまつで、周囲の大人たちはほとほと困り果てていた。
縁談を蹴り続けているからといって、仲謀に想う娘がいるわけでもないし、身近な侍女に手を出すわけでもない。ひたすら政治に軍事にといそしむばかりの彼を見かね、側仕えの若い者たちが気を利かせたつもりで歓楽街に誘いだしたが、仲謀は妓女たちのふりまく色香を「化粧が濃すぎてどれも同じに見えるな」のひと言で切り捨ててひとりたらふく酒を飲み、あげくに因縁をつけてきたゴロツキどもと派手な大立ち回りをやらかして周都督から氷点下の諫言を食らうという、ただしい意味での武勇伝を作ってしまった。
このように、いっこうに色めく気配のない主君の身辺であるが、それでも大半の者は「まだお若いのだから」と余裕を持ってかまえている。そのうち嫌でも妻を迎えなければならない身分なのだし、そうなればおのずと女性への興味もわいてくることだろう。あせっているのは、母であるがゆえに息子の将来に神経質になっている呉夫人と、『そのうち』を待てない気も寿命も短い年寄りたちなのである。
そしていま、まさしくその『老い先短い』年寄りたちは、このうららかに晴れた空の下、彼らの念願を早急にかなえるべく、年の功を持ちよって密談を行っているのだった。
・・・・・・つまるところは心配性な爺さま婆さまの余計なお世話にすぎなかったりするのだが。
かくて彼らは老いた顔をつきあわせ、誰知られることのない真剣な討議を重ねていた。
「うぬぬ、どのようにすれば、仲謀さまに嫁ごをめあわせることができるのじゃ」
「そもそも仲謀さまは、女性そのものをあまり好いてはおられぬご様子。そこが問題ですわね」
「うむ、おなごは集まって騒ぐばかりでやかましい、とか、我がままですぐに癇しゃくをおこすからめんどうだ、ともおっしゃっておられましたな」
腕組みをして将軍がうなると、重臣も女官も苦い表情でうなずく。
「おそれおおいことながら、母君の呉夫人はなかなかにお気が強く、教育熱心なお方じゃ。幼きころよりお小言も多うございましたから、そのせいやもしれませぬのぅ」
「妹君の尚香さまも、明るくお元気なのはよろしいのですが、どうもお口が達者すぎて。よく仲謀さまと言い争いになっていますわ」
「そのうえ、喬家のご姉妹が、日々容赦なく飛び蹴りを食らわせておりますからなあ・・・・・・」
仲謀の身近にいる女性たちの特徴をならべたて、彼らはちょっと主君に同情を感じた。彼女たちは美人の多い揚州でもすぐれた美質をうたわれる貴婦人なのだが、どうにも中身のクセが強すぎる。
「・・・・・・しかし、そういったおなごにウンザリしていらっしゃるとなれば、いっそ逆の性質を持つおなごになら、気を惹かれるのではござらんか?」
しばらく考え込んだあとで、将軍がぽつりと対案を出す。さすがに職業柄、作戦を練ることに慣れているだけあって、思考をまとめるのが早い。重臣は顔を輝かせて、おお、と感嘆の声をもらした。
「そうですのう、その線は考えられますじゃ。では、さっそく、しとやかで物静かな深窓の姫君を・・・・・・」
「お待ちくださいな、ご老公」
いまにも花嫁候補を物色に走りだしそうな重臣を、女官の冷静なひと言が止めた。
「そうやって何かと『嫁取りを』とせまるから、仲謀さまもかえってムキになってしまわれるのですわ。ここは落ち着いて、仲謀さまのお気に召しそうな女性の目星をしっかりつけませんと」
「さよう、ひとまず嫁取りのことは脇に置きましょうぞ。それに、お相手のご身分のことは大事なれど、それに縛られていては、仲謀さまのお好みは探れませぬ」
友人ふたりの制止にあって、重臣は肩を落としながら椅子に座りなおす。
「確かに、それもそうですじゃ。年をとりますと、頭が固くなっていけませんのう」
気を取り直し、重臣は友人たちを見回した。
「ではあらためて、仲謀さまのお気に召すおなごとは如何に?わしは、あまり口やかましくない、おとなしい性質の女人のほうが好ましく思われるのではないかと考えますじゃ」
「そうですわね……でも、あまりおとなしすぎても、活発な仲謀さまのこと、物足りなく思われるのではございません?あのとおり、お口もお振る舞いも、すこしばかり荒っぽいところがおありですし」
「うむ、悪気はござらぬが、おなごには少々きついと思われてしまうこともあるやもしれませぬな。それにめげず、広い心で付き合う、おとなしげな中にも芯の強いところのあるおなご・・・・・・ほほう、これは武人の妻にふさわしゅうござるな」
自分の妻のことを思い出したのか、将軍のいかつい顔がわずかにほころぶ。
「そうですのう、ときには仲謀さまに言い返すくらいでないと、長持ちはしそうにないですじゃ」
「そうすると、やはりお年は仲謀さまより上のほうが?ほほ、姉さん女房というわけですわね」
「しかし、あまり年長けるのもいけませぬな。妹君もおいでのことですし、仲謀さまはああ見えて、おなごは守ってやらねばとお考えの方。年は上でも、見た目はすこしばかり幼いおなごであれば、庇護のお気持ちを刺激されるのではござらぬか?」
「まあ、それは愛らしいお方ですわねぇ」
可憐な少女を想像したのか、女官が楽しそうに両手を合わせた。
重臣はあごひげをなでつつ、首をひねる。
「うむむ、容姿ということになれば、やはり仲謀さまにふさわしき、あでやかな美女がよろしいのではないですかのう?」
「それは見る側の希望ですわ。むしろ仲謀さまは、なまじな美人などお目にとめられないのでは?孫家は美男美女のご一族ですし、城内にも身目のよい娘ばかりがそろっていますから、かえって飾りけのない、素朴な顔立ちの女性のほうが、つい気になってしまうのではございません?」
「なるほど、はではでしい牡丹より、野に咲く花のいじらしさというわけですな」
「ふむふむ・・・・・・」
いつのまにか携帯用の筆記具を取り出していた重臣が、これまた携帯していた小型の竹簡に、目指す女性像の特徴を書きつらねていく。
文官らしいととのった筆跡でさらさらと文字が生まれるそこには、次々と彼らの提案が記されていった。
「とはいえ仲謀さまは、諸学にあかるいお方ゆえ、かわゆいばかりで教養がないおなごというのも困りますのう。それなりに賢いおなごでなくては」
「そうですねえ、諸子百家に通じるとまではいかなくとも、ご政道のお話についていけるほどの素養があれば、仲謀さまも女性を見直されますわ」
「いっそ、兵法軍略に詳しいおなごというのはいかがですかな?珍しくもありますし、仲謀さまは軍の指揮にたいそうご熱心ですからな、すすんでお側に召されるのではござらんか」
「おなごが戦に口を出すなど・・・・・・いやいや、たしかに、そのくらいの物珍しさがなくば、仲謀さまのお心は捕まえられませんじゃ!」
「そのような女性であれば、きっと生い立ちも並の娘とは違いますわねえ。なにか特別ないわれがあって・・・・・・戦に追われて遠い国から流れてきたとか、天涯孤独のところを親切な文人に拾われて育ったとか。物語のようですわ」
「か弱き民草にお優しい仲謀さまですからな。そのように哀れな事情のあるおなごには、ついお情けをかけるということも、うむ、ありえますぞ」
「出会いの演出にも凝りたいところですじゃ。おなごどもから騒がれることには慣れていらっしゃる仲謀さまですからな、ここはいっそ、初対面では『眼中にない』とつれない反応をされるほうが、かえって気にかかってしまうというもの」
「まあ、さすがご老公、男女の機微をよくご存知ですわ」
「まことに、それこそ男心のツボでござる。いやはや、某も、武骨者ゆえ若きころは妻になんども袖にされまして・・・・・・」
「ふぉっふぉっ、色恋など、いつの時代もかわりませんのう」
「そのとおりですわね、ほほほ・・・・・・」
ひとしきり笑い声をひびかせ、老人たちはご機嫌で茶をすすった。
ゆるゆると喉をうるおし、さてそれではと、期待に胸をときめかせて文字で埋めつくされた竹簡をのぞきこむ。
「我らの考えによれば、仲謀さまのお気に召すおなごとは・・・・・・」
そこに書かれていたことを要約し、かつ異世界風に意訳すると。
『容姿はふつうっぽくて清純系、年上がいいけど、ちょっとロリ入ってる子が理想。おとなしめの性格で口やかましくはないけど実はけっこう気は強め。たまにケンカも可。政治とかミリタリー方面の話についてこられて、出身に曰くつきでどこかミステリアス。天下の美形相手でも発揮できるツンデレ属性あり』
無茶ぶりにもほどがある。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
どよん、と。青い縦線が彼らの頭上に描きこまれる。
一気に沈みこんだその場の空気を読むことなく、ピチチ、と小鳥が愛らしくさえずった。
「・・・・・・うむむ」
「はぁ・・・・・・」
「・・・・・・これは、また・・・・・・」
揚州広しといえども、いったいどこにそんな間口の狭い条件を満たす娘がいるというのか。いっそ空から降ってこいと祈ったほうが早いんじゃないか?
しぶりきった顔をあわせた三人の目には、そんな思いが浮かんでいた。
「・・・・・・嫁ご、来ますかのう・・・・・・?」
我らの生きているうちに。
重臣がぽつりとつぶやき、うつろに空を見あげる。他のふたりも、ぼんやりとそれにならった。
なるべく余命が残っていますように、と彼らは天に願う。長年の経験から、神さまがどれほど当てにならない存在か、よくよく知っていながら。
やわらかな日差しは、かわらずに昼下がりの庭をあかるく照らし、木々の緑をいきいきと輝かせていた。
さて、その当てにならない神さまであるが、この件に関しては老人たちの切なる希望を見捨てなかったらしい。さして長い時間を要さず、彼らもそれを知ることになる。
大きな戦が終わったある冬の日、小船に乗って、ひとりの娘が京城をおとずれた。
そして。
「うむむ?」
仲良く手をつないだ当主と娘が、喬家の姉妹にからかわれている光景を目にした重臣は、
長いひげをつまみながら首をかしげ。
「あら?」
なんとも気まずそうな顔をした当主から、娘の衣装を仕立てるよう命令された女官は、口もとをおさえて目を丸くし。
「ほほう?」
戦地・合肥へ向かう軍船のなかで、その衣装を娘の手におしつける当主のぶっきらぼうな声を耳にした将軍は、頬の古傷を指でこすった。
やがて彼らの望みは、『自分が生きているうちに奥方さまに赤さまが授かりますように』になる。
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日々ウケと笑いをねらって生きてます。
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