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PS2ゲーム「三国恋戦記」のいろいろ。 はじめて来られた方はカテゴリ「はじめに」をご覧ください。
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久しぶりの仲花SSです。
婚儀後のおはなし。

読まれる方は、以下の点にご注意ください。


注1) 尚香ちゃんが玄徳さんに嫁いでます。いわゆる玄×尚。

注2) 師匠が微妙に腹黒です。あれ、これは公式設定(笑)?

注3) 仲謀が煩悩まみれです。あれ、これ(以下略)

ご理解いただける方は、「続き」からごらん下さい。
 

「傾城策を用いずして成す」
 
 
 「ねえ、お願い」
 
 そもそも花は、何かを欲しがるということがない女だ。
 衣服でも宝石でも、食べるものでも身の周りの日用品でも、あれが欲しいこれじゃなきゃ嫌と言いだすのを聞いたことがない。
 動くのに不便だからと長く裾をひきずる衣装は着たがらず、頭が痛くなるからと櫛やかんざしも付けたがらない。字が書きづらいからと腕環を拒み、肩がこるからと首飾りを外す。部屋の装飾は生け花があればじゅうぶんだと言い、簡単な掃除なら自分でするのが当然だと雑巾をしぼる。買い物は商人を呼びつけるものではなく、自分の足で市場を見て回りながらするのが楽しいと断言する(しかも買うのは駄菓子と野菜)。
 仲謀に嫁いで揚州に住まうと決めて以来、彼女に仕えることになった侍女たちも、ときどき困惑している。花さまは、もうすこし孫家の奥方さまとしてふさわしいご生活をなさるべきだ。これではあまりに質素にすぎる、と。
 
 「お願い、仲謀、いいでしょう?」
 
 そんな周囲の意見に対して、本人の答えて曰く、
「だって、私が働いて稼いで裕福な暮らしをしているわけじゃないんだから、ぜいたくに慣れたらいけないと思うの」
 この豊かな生活は孫家の富によるもので、自分はそこに頼って暮らしているわけだから、当然のように消費するわけにはいかないという。十七、八の小娘らしからぬ芯の強さだ。
 それは為政者の妻としてはよろこばしい感覚ではあるのだが、すこしばかり複雑だと仲謀は思う。こっちは望まれればなんでも与えてやるつもりで待ち構えているのに、花が自分に望むことといえば「あんまり夜遅くまで仕事しないでね」とか「忙しいのは知ってるけど、ちゃんとご飯は食べてね」とか「出張先で風邪引かないように気をつけてね」とか、なんとも健気なことばかりだ。これはこれで可愛いのだが(思わず抱きしめてしまった)、やはり愛しい者には贈り物のひとつもしたいというのが男の甲斐性である。
 だから仲謀は、心に決めていた。もしも花が、自分に何かをねだってくることがあれば、よろこんで叶えてやろうと。
 
「どうしても、ねっ?私のお願い、叶えてくれる?」
 
 そしていま、花はけんめいに語りかけてくる。
 長椅子に座った仲謀の横に陣取り、すらりと伸びた仲謀の腕に自分のそれを絡ませるようにして、華奢な身をすり寄せている。
 必死に上向かせている白いあご、ちょっとかたむけた頬にサラリとかかる柔らかな髪、きらきらと輝く大きな瞳に至るまで、まったくもって仲謀の理性をブチ切りそうなほど愛らしい。
 それでなくとも今は夜、ところは寝所。夫婦の仲をいっそう深めるべき時間と場所である。湯を使った花の襟元からは、あたたかな肌の甘い香りがぽわぽわと立ち上り、うっすらと桃色に染まった頬は、早く触れてほしいといわんばかりの艶やかさ。とどめは、花が無意識のうちに腕へと押し付けてくるやわらかな感触だ。桃源郷だ。
 もはやどんな願いごとであれ、さっさと了解したとうなずいて話を終わりにし、寝台で仲睦まじくいちゃつきたいというのが、いつわらざる仲謀の本音である。
 ぜひともそうしたい。夜は短い。明日も朝から仕事が詰まっている。
 そうしたいが・・・・・・だがしかし。
 群青の瞳を半分閉じて、苦々しくあさってのほうを向く仲謀の耳に、花の哀願が追いかけてきた。
 
「ねっ、仲謀お願い。ちょっとだけ、荊州に行ってもいいでしょう?」
 
 こんな願いごとに、どうして機嫌よく頷けようか。
 
 
 芙蓉姫が結婚するのだ、と花は言った。
「玄徳軍の武将さんで、芙蓉姫がずっと好きだったひとなんだって。婚約は前からしていたんだけど、ほら、玄徳さんが益州を統一したでしょ?それで軍もちょっと落ち着いたから、そろそろ婚儀をってことになったらしいの。婚約者さんは雲長さんの部下で、荊州でのお仕事が主だから、式もそっちで挙げるって」
 友人の慶事を、花はわがことのように弾んだ口調で語る。
「尚香さんも、すごく楽しみにしてるんだって。芙蓉姫は美人でなんでも似合うから、花嫁衣装選びがたいへんだってお便りが来たの」
 ほらほら見て、と示す書簡は、たしかに妹の筆跡だ。嫁いでも落ち着きのなさは変わっていないのか、文字のあちこちが飛び跳ねて、興奮が伝わってくる。
 その書簡の最後には、「義姉上もぜひおいでくださいませ」とある。「兄上とごいっしょに」と書かないあたりが、我が妹ながらなんとも面憎い。
「芙蓉姫からの招待状に、玄徳さんの書簡が添えてあってね。『里帰りだと思って気楽においで』って。『もちろん同盟国の賓客として礼儀は尽くすが、ここはお前の実家みたいなものだから、皆とのんびり過ごすといいぞ』って書いてあったの。あいかわらずお兄ちゃんみたい」
 仁徳の君と名高い男の名を口にして、花はにっこりと幸せそうに笑う。この世界に血のつながった親兄弟を持たない花にとって、いつでも親身に心配りをしてくれる兄代わりの玄徳は、夫である仲謀とは違った意味で、かけがえのない存在なのだろう。
 年上の義弟にあたる玄徳の人となりについては、仲謀も認めてはいる。おそらく花への書簡も、彼らしいおおらかな気づかいによるものだ。他意はない。それはわかる。
 わかってはいるが、積極的に荊州行きを勧めるその文面は、やはりおもしろくない。ろくに返事もせずそっぽを向いたままでいると、ふいに花の声音が揺れた。
「・・・・・・やっぱり、だめなの?」
 その呟きがあんまり悲しそうな響きだったので、つい仲謀は花の顔を覗きこんだ。微笑みから一転、不安げな表情にかわった花は、長いまつげにうっすらと湿り気を帯びている。
「女官長さんにも言われたの。孫家の奥方さまともあろうかたが、かるがるしく遠出などしてはいけませんって。お祝いなら、代わりのひと……ええと『名代』に行ってもらえばいいって」
 たしかに現在の花の身分は、かなり高いといえる。広大な揚州の主たる孫仲謀の正妻、ただひとりの寵妃。その高貴さは仲謀の母・呉夫人に次ぎ、敵対勢力に狙われる危険度では、あるいは仲謀自身よりも高いかもしれない。厳重な護衛なしには城下の散策すら許されないほどで、女官長の諫言も、そのあたりの心配から来ているのだろう。
 それに対して芙蓉姫は、いくら仲良くしているといっても、玄徳軍の武将のひとりにすぎない。こちらの感覚でいえば、書簡ひとつと祝いの品を贈れば済むような事案なのだ。
 でも、と仲謀を見あげる瞳は切々と訴える。
「芙蓉姫は、だいじなお友だちなの。この国に来て、なんにも分からない私に、すごく良くしてくれたの」
 その優しい友人に、どうしても自分の口から「おめでとう」と伝えたい。こころからの祝福をもって、親友の門出を見守りたい。あずき色の瞳にあるのは、ひとりの少女としての純真な願いだけだ。
 それに、と花はふいに頬を押さえて口ごもる。
「芙蓉姫だって、お嫁に行ったら、もう簡単には揚州に来てくれたりとか、できないでしょ?お互い、そのうち・・・・・・その、お母さんになっちゃったりしたら、旅行なんて無理だろうし」
 もしかしたらこの先、何年も会えなくなるかもしれない。だからこの婚儀への招待をなんとしても受けたいのだと、花は言葉を結んだ。
「ちゃんと仲謀の奥さんらしく、おとなしくするから。危ないところにも行かないから。婚儀が済んだら、すぐに帰ってくるから・・・・・・ねえ、仲謀、お願い。荊州に行ってきてもいい?」
 こてん、と仲謀の胸に額をあずけて、花はそっと目を閉じる。
 期待と不安を等分にこめたその仕草に、仲謀は花の肩にゆるく腕を回しながら、かんべんしてくれと天を仰いだ。
 
 なんだこの愛おしくも卑怯な策略は。
 
 ここで仲謀が『否』と言えば、とうぜんのことながら花は落胆する。気が強いながらも自分を押さえることを知っている少女なので、立場を理解して荊州行きを諦め、表だって反発はしないだろう。だが、現在でも「奥方さまとしてどうこう」と周囲から制約を受けているところに、この返答を受けては、きゅうくつな身分にさらなる不満を覚えてしまうかもしれない。
 もちろん、夫たる仲謀の株はぐんと下がる。せっかくの逢瀬も台無しだ。ただでさえ視察だ決裁だと仕事に追われて、花と過ごす夜は月に指折り数えるほどだというのに、当の彼女を気落ちさせてしまっては、とても仲睦まじくあれこれするどころではない。一気に「今夜はごめんなさい」状態に突入だ。かるく泣ける。
 だからといって『是』と言ってしまえば、どうなるか。きっと花は喜び、満面の笑みで仲謀に感謝するだろう。ありがとう仲謀うれしいだいすき……そこから続く甘い展開は言うまでもない。
 しかし、そのあとに待っているのは、さびしいお留守番生活である。荊州までの旅路は遠く、結婚にまつわる儀式や宴は数日にわたる。そのうえ先方で待ち受けているのは、義姉を熱烈に慕う妹と、『我らが軍師どの』をめろめろに溺愛する玄徳軍の武将たちである。かんたんに花を揚州に帰すはずがないではないか。
 とりわけ仲謀の癇に障るのは、例の『伏龍先生』、諸葛孔明のうさんくさい笑顔だ。
 思い出すのも腹ただしいが、尚香と玄徳の婚儀にまつわる騒動の末、荊州に帰還してしまった花を迎えに行ったときのこと。仲謀の求愛に応えて花がこの世界に残ると決めたあと、すぐにでも花を伴って揚州に戻ろうとする彼をやんわりと止めたのは、この童顔の天才軍師だった。
「いやぁ、まあ、若いっていいですねえ」
 自分もまだ青年のくせにヘラヘラ笑いながら年寄りくさいことを言った孔明は、はやく本拠地に帰って花と水入らずですごしたいと焦れる仲謀をしり目に、玄徳はじめ諸将へと穏やかに語りかけた。
「我が愛弟子が、孫家のご当主のおめがねに適いましたことは、まことにめでたい。しかしながら、この子はまだ見識も浅く、女人のたしなみも十分に身につけてはおりません。とてもこのままでは、天下の名門に嫁がせるわけにはまいりません」
 玄徳さまのお名前をはずかしめない為に、と孔明はにこりと笑ってかたわらの花を見た。
「君が仲謀殿についていきたい気持ちはわかるよ。でもね、孫家の奥方さまになるためには、いろいろ知識とか心構えが必要なんだ。それをきちんと学んでから揚州に行くほうが、君にとっても仲謀殿にとっても、良いんじゃないかな」
 僕たちが盛大に嫁入り支度をしてあげるよと、おどけたように片眼をつむる師匠に、素直な花は感動して涙さえ浮かべ、周囲の者は美しい師弟愛に心うたれてその場は和み、なしくずしに「とりあえず仲謀殿は帰ってくださいひとりで」という空気になりかけたところを我に返った仲謀が「冗談じゃねえとっとと花を寄こしやがれ」と爆発して花を強引に担ぎあげ船に乗せたという、笑えないエピソードが残された。
 それからしばらくして、中原一帯に『孫家の若大将が玄徳軍から無理やり女をかっさらって嫁にした』という聞こえの悪い噂が流れたが、それは孔明のセコい嫌がらせだと仲謀は信じている。婿と舅のみにくい争いは、どの世界でも共通なのだ。
 そんな微妙にイヤな対立関係にある男のもとに、どうして愛する妻を送り出せようか。きっと、なんだかんだと理由をつけて、婚儀が終わっても花を手元に留めたがるにきまっている。へたをすれば、月単位で滞在が伸びてしまうだろう。むしろそれを狙って、玄徳や尚香をたきつけたのではないかと、仲謀は音もなく歯ぎしりをした。
 おのれ孔明。いつかあの触角を切り落としてやる。
 とにかく今は、花をなんとか言いくるめなければならない。ひとりで荊州に向かわせるわけにはいかない。いずれ自分が連れて行ってやるか、もしくは理由をつけて尚香と芙蓉姫を揚州に招いてやるから、今回は代理の者に行かせろ・・・・・・この線でなんとか妥協してもらえないか。
 仲謀はひそかに気合いを入れて、花の肩に手をかける。
 すこし身を離して彼女の顔を見つめ、すうっと息を吸い込んだとき、熱っぽく潤む瞳とぶつかった。
「ちゅうぼう・・・・・・お願い、『うん』って言って?」
 
 このやろう無意識だからってなんでも許されると思うなよ!
 
 吸い込んだ空気をむなしくため息に変えながら、仲謀はガックリとうなだれた。
 だめだ、勝てる気がしない。こんなに負けの見えた戦は初めてだ。花が無自覚だから、よけいに敗北感が増す。同じくらいに愛しさも。
 惚れた弱みとはかくも恐ろしいものかと諦めつつ、こうなったら目先の幸せだけでも存分に味わってやると心に決めて、端正な唇を花のそれに寄せる。
「え、仲謀?」
 急な口づけにおどろく花を片手で押さえ、これが終わったら敗北宣言をしてやるから今夜は覚悟しろと、仲謀は心のなかだけで傲慢に笑った。
 

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