ラブコレ発行の仲花本「月夜」の内容サンプルをUPしました。
本文の抜粋です。
「つづきを読む」からごらん下さい。
この部分の切り取りで適当だったのかどうかの自信は無いのですが・・・(汗)
本文の抜粋です。
「つづきを読む」からごらん下さい。
この部分の切り取りで適当だったのかどうかの自信は無いのですが・・・(汗)
「十六夜」より
視線を伏せて考えに沈んでいた仲謀は、侍従が続けた言葉にあわてて意識を現実に戻した。忠実な彼は、主君からの問いかけになるべく正確に答えようと、まだ記憶を探っていたらしい。
「そういえば使者殿は、本日、食事をお召し上がりにならなかったと聞きましてございます」
「……なに?」
「昼と夕方、侍女がお部屋まで膳をお持ちしましたが、お返事いただけなかったと。中にいらっしゃる気配はしたとのことで、どうもお休みになられているようだ、と侍女は申しておりました」
「…………」
「しかたなく、水差しに干菓子を添えて、お部屋の隅に置いてきたそうでございます」
仲謀は完全に箸を置いて、侍従に向きなおった。いきなり真剣さを増した主君の表情に、侍従はわけもなく額に汗をかいた。
「寝ているだけか?たしかに?」
「は、あの、侍女も、寝台まで確認したわけではございませんで……ただ、そのような気配だった、としか」
「…………」
「軍師を勤めておられるとはいえ、かよわい女人の身、長旅のお疲れが出たのでございましょう」
ぎくり、と心臓が跳ねた。
「……っ、そうだな」
ひどく動揺した自分を隠すため、仲謀はふたたび食膳に向かう。侍従の困惑した視線を拒否するように、ただ黙々と料理を口に運び続けた。
「……う……いっ、いや、違うぞ、これは偶然だ」
ガチガチに固まった背中に、なんとも言いがたいがどことなく非難がましい視線を注がれているのに気づいて、仲謀はあさってのほうを向いたまま引きつった声音でつぶやいた。
「べつに、俺は、最初から離れに行くつもりなんてなくて、全然まったく、ただ適当に歩いてたら来ちまったっつーか、そもそも離れの位置なんかよく知らなかったっつーか」
冷静に考えれば、なぜそこまで必死に家臣に対して弁解しなくてはならないのかと気づきそうなものだが、このときの仲謀は、護衛が抱いたであろう『あらぬ誤解』を打ち消すことだけしか頭になかった。城主の、いや男の名誉に関わることである。
忠実な武人は何も言わず、うろたえる主君の背後で、夜にまぎれて端然とひかえている。その沈黙がなおさらいたたまれなくて、仲謀は頬どころか額まで赤くして力説した。
「誤解するなよ、わざとじゃねえぞ。ただ、そうだ、その、あ、あんまり……月が……みごとで、それでフラフラ誘われて……って」
あああ、と仲謀は絶望的なうめき声をあげて、ついにその場にしゃがみこんだ。
視線を伏せて考えに沈んでいた仲謀は、侍従が続けた言葉にあわてて意識を現実に戻した。忠実な彼は、主君からの問いかけになるべく正確に答えようと、まだ記憶を探っていたらしい。
「そういえば使者殿は、本日、食事をお召し上がりにならなかったと聞きましてございます」
「……なに?」
「昼と夕方、侍女がお部屋まで膳をお持ちしましたが、お返事いただけなかったと。中にいらっしゃる気配はしたとのことで、どうもお休みになられているようだ、と侍女は申しておりました」
「…………」
「しかたなく、水差しに干菓子を添えて、お部屋の隅に置いてきたそうでございます」
仲謀は完全に箸を置いて、侍従に向きなおった。いきなり真剣さを増した主君の表情に、侍従はわけもなく額に汗をかいた。
「寝ているだけか?たしかに?」
「は、あの、侍女も、寝台まで確認したわけではございませんで……ただ、そのような気配だった、としか」
「…………」
「軍師を勤めておられるとはいえ、かよわい女人の身、長旅のお疲れが出たのでございましょう」
ぎくり、と心臓が跳ねた。
「……っ、そうだな」
ひどく動揺した自分を隠すため、仲謀はふたたび食膳に向かう。侍従の困惑した視線を拒否するように、ただ黙々と料理を口に運び続けた。
「……う……いっ、いや、違うぞ、これは偶然だ」
ガチガチに固まった背中に、なんとも言いがたいがどことなく非難がましい視線を注がれているのに気づいて、仲謀はあさってのほうを向いたまま引きつった声音でつぶやいた。
「べつに、俺は、最初から離れに行くつもりなんてなくて、全然まったく、ただ適当に歩いてたら来ちまったっつーか、そもそも離れの位置なんかよく知らなかったっつーか」
冷静に考えれば、なぜそこまで必死に家臣に対して弁解しなくてはならないのかと気づきそうなものだが、このときの仲謀は、護衛が抱いたであろう『あらぬ誤解』を打ち消すことだけしか頭になかった。城主の、いや男の名誉に関わることである。
忠実な武人は何も言わず、うろたえる主君の背後で、夜にまぎれて端然とひかえている。その沈黙がなおさらいたたまれなくて、仲謀は頬どころか額まで赤くして力説した。
「誤解するなよ、わざとじゃねえぞ。ただ、そうだ、その、あ、あんまり……月が……みごとで、それでフラフラ誘われて……って」
あああ、と仲謀は絶望的なうめき声をあげて、ついにその場にしゃがみこんだ。
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日々ウケと笑いをねらって生きてます。
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